教室で話したこともなかったのに、どうして声をかけたのかは自分でもわからない。
ただ、月を見上げる目に涙が見えたから。
「こんな時間に女子一人は危なくね?」
振り向いた目尻から涙が流れ落ちた。それを拭いもせずこちらを見る。
そのさまを、綺麗だと思った。
疲れてしまったのかもしれない。オレも、お前も。
???
「紅茶とコーヒー、好きな方とって。」
自販機で買ったホットドリンクを差し出すと、静かに紅茶をとった。
「ありがと。いくら?」
「あー、いーっていーって!サイフしまって!」
「払ってもらったままじゃ気持ちわるい。」
数百円もしないんだから、奢られとけばいいのに。
大抵の女の子は奢ると喜ぶのに。
「じゃ、今度何かおごってよ。それでいい?」
提案すれば納得したように頷いた
彼女が黙って紅茶を飲み始めたので、オレもコーヒーを口に運ぶ。
なんでこんな夜中に、とか、泣いてた理由とか、聞きたいことはたくさんあるけど。何も話さないまま並んでる状況は奇妙で、けど不思議と居心地は悪くなかった。
「…。ときどきね、逃げたくなるの。」
ぽつりと零した言葉はひとりごとのようで。
「地球のこととか、学校とか、もういいやって。全部放り出したくなって。」
うつむいた彼女の表情は読めない。
「深夜に歩いてると、私が私じゃなくなるみたいで、許された気分になるから」
夜と私の境界が溶けてなくなってしまえばいい。そのまま朝日に照らされて、消えられたならどんなに良いか。
前を向いた彼女の目に、自販機の明かりがぼんやり映っていた。
誰でも良かったのだろう。もしかしたら、もともと話す気もなかったのかもしれない。
けれど、彼女の言葉が、自分に刺さって苦しかった。
たくさんの女の子と遊んでも、可愛い子と寝てみても。ぽっかり空いた何かが埋まることはなかった。
不安なのか焦りなのかもわからない感情と、空虚な己を隠すのに必死だった。
「まぁ、なんて言うかさ?
?……。疲れたよな。お互いにさ。」
よく分からない感情のまま、かけた言葉を向ける先は、彼女か、俺か。
ヘラリと浮かべたいつもの顔は、彼女の目にどう映っただろう。